第2章 オンラインショップの制作モデル
オンラインショップの制作にあたって、一番とまどうのは、どのような表現がもっとも効果的なのかいまひとつ確信が持てない、ということではないだろうか。たとえば、トップページでは、看板となる画像をメインとして、デザイン的にシンプルにまとめたほうがよいのか、それとも逆にデザイン画像は必要最小限にとどめ、できるだけ文字情報のみで構成したほうがよいのか、またもし画像を使うとしたら、どういったデザインで、どのくらいの容量のものにすべきなのか…。困ったことにこういった大小さまざまな疑問が、オンラインショップの制作にはいちいちつきまとってくるのだ。
これが従来のカタログ制作や店鋪設計であれば、一から悩むことはそう多くない。そうした分野ではすでに制作(設計)上の基準や経験則がある程度蓄積されており、少なくともそうした制作上の規範にのっとっている限り、カタログ制作者や店鋪設計者は、おおきな間違いをおかす心配はないからである。
だが、オンラインショップの場合、残念ながらそのような制作上の規範はまだきちんと確立されていない。そのため、効果的なオンラインショップを作ろうと思えば思うほど、つまり真剣な制作者ほど、どのような表現にすべきか、その細かい部分にまでいちいち頭を悩ませなければならない、ということになってしまうのだ。こうした制作上の規範の不在、あるいはあいまいさこそが、オンラインショップの制作現場に混乱をもたらしている最大の理由といえるだろう。
オンラインショップの機能分析 しかしながら、制作上の規範がないままではやはり不便である。そこで、ここでは(だいそれた試みだが)オンラインショップにおける制作モデルを独自に構築してみようと思う。
だが、そのためにはまずオンラインショップというものが、そもそもどのような機能をそなえているのか、について知る必要があるだろう。そこでここではまずオンラインショップの機能を、消費者の購買「行動」プロセスという側面から調べてみたい。
購買行動プロセスとは、消費者がオンラインショップを訪れてから商品を検討し、その結果、注文、さらにリピート購入にいたるまでの過程のことである。 図のように、ここではそれを便宜上、「訪問」「商品検索」「情報収集」「評価」「注文」「リピート購入」という6つのステップに分けてみた。
訪問 ↓ 商品検索 ↓ 情報収集 ↓ 評価 ↓ 注文
↓ リピート購入 このうち「訪問」というのは、見込み客のショップへのアクセス行動を意味する。次に「商品検索」というのは、ショップにアクセスしたお客様がお目当ての商品を探す段階である。また「情報収集」というのは、お目当ての商品を探し出した見込客がコピーを読んだり、スペックを調べたりして商品情報を集めることをさす。さらにそこで得られた情報をもとに競合商品と比較したり、企業の信頼性やブランドイメージについて判断をくだすのが次の「評価」段階。そして、もしここで「買うに価する」という評価がくだされれば、見込み客は注文フォームに必要事項を記入して送信ボタンをクリックするはずである。これが「注文」の段階だ。さらにもし見込み客がその商品を気に入り、サイトの使い勝手もよければ、おそらくリピーターとなり、今後も継続的に購入してくれるだろう。この段階が「リピート購入」である。
ただ、ここで注意しなければならないのは、訪問の段階から注文の段階まで必ずしも時間的に連続して進行するわけではないことである。 とくに流れが断続しやすいのは、「情報収集」と「評価」の間だろう。たとえば、あるショップでAという商品情報を仕入れ、さらに別のショップでBという商品情報を仕入れた後、いったんインターネットへの接続を解除し、どちらを購入すべきかオフラインでじっくりーーそれも何日にもわたってーー「評価」するというのはけっして珍しいことではない。
またもうひとつ注意しなければならないのは、誰もが必ずこのプロセスを順序よくたどるとはかぎらない点である。これはとくにリピーターについていえることだが、すでに商品知識がある場合、途中の段階を飛ばしていきなり注文の段階にくるケースもなかにはあるだろう。
しかしながら、こうした一部の例外をのぞけば、ここに示した一連の流れは、オンラインショップにおける典型的な購買モデルであるといってよい。
AIDMAの法則 ところで、こうした購買行動モデルと似たものにAIDA(アイーダ)の法則がある。AIDAの法則というのは、消費者が商品に接してから購買にいたるまでのプロセスをATTENTION(注目)、INTEREST(興味)、DESIRE(欲求)、ACTION(購買)という4つのステップにまとめたもので、購買心理プロセスモデルと呼ばれている。
このAIDAによれば、消費者はまず広告や店頭陳列などによって商品を認知し(ATTENTION)、ついで興味を抱き(INTEREST)、さらにそれに対する欲求が喚起され(DESIRE)、そして最終的に購買行動をおこす(ACTION)とされている。
なお、このAIDAには多くの変形モデルがあり、そのひとつが、AIDMA(アイドマ)である。これはDESIREとACTIONとの間に「Memory」(記憶)というステップを加えたもので、日本ではAIDAよりむしろこのAIDMAのほうがよく知られている。
ちなみにここでいう「Memory」とは、商品名を記憶させるという意味である。 またこのMemoryの代わりに「Conviction」(確信)を入れたAIDCA(アイダカ)というモデルもあり、最近の消費者の購買心理プロセスとしては、このAIDCAのほうが、より正確といえるだろう。というのは最近の消費者は、その商品がいくらよいものであると「理解」したとしても、ただそれだけでは動かず、それが本当によいものであると「確信」した上ではじめて購買行動に移るケースが多くなっているからだ。
制作モデルとしてのAIDMA
もちろん、実際の購買行動における心理プロセスはもっと複雑であろうし、比較的かぎられた購買パターンを持つオンラインショップにおいても、みながみなこのAIDMAという単純なモデルにあてはまるとはかぎらない。だが、それが一定の普遍性をもっていることもまた事実であり、そのため広告などの分野では、いまでも有効とされているマーケティングモデルのひとつなのである。
またこのAIDMAモデルがすぐれているのは、それがそっくりそのまま広告などの制作モデルとしても応用可能な点にある。実際、広告制作の現場ではいまでも多くの制作者が(意識するかしないかは別にして)このAIDMAモデルに則って広告を制作しているのである。
もっとも付け加えるならば、このAIDMAが有効なのは、通販カタログやチラシなど、いわゆる高関与コミュニケーション下においてであり、TVやラジオコマーシャルなどの低関与コミュニケーション下では、必ずしも有効性をもつモデルではないといわれている。
だが、少なくとも高関与型メディアにおいては、その有効性はすでに実証されている。その点、同じ高関与型メディアであるオンラインショップを、このAIDMAモデルで分析することはけして的外れなことではないはずだ。
AIDCAモデルで分析するオンラインショップ それではこのAIDMAモデルが、はたしてオンラインショップにもあてはまるものかどうか、ここでちょっと検討してみよう。なおここではAIDMAではなくAIDCAを採用することにする。その理由はAIDCAの項でも述べた通り、このモデルのほうが消費者の購買心理プロセスとして、より現実に則していると考えられるからである。
さてこのAIDCAモデルをオンラインショップにあてはめる前に検討しなければならないのは、オンラインショップを訪れる人たちは、いったいどのような経路をたどってアクセスしてくるのか、という問題である。それというのもアドレスを知らないお客様が直接、ショップにアクセスしてくることはありえないからである。それは、たとえていえば、電話を引いたようなもので、ある人が電話を引いたからといって、電話番号を公開しないかぎり、誰もその人に電話をかけることができないのと同じ理屈である。
お客様がオンラインショップにアクセスしてくる経路はいくつか考えられるが、なかでも多いのは検索エンジンを通してアクセスしてくるケースであろう。また新聞、雑誌、テレビなどのマスメディアに広告を出していれば、それをみてアクセスしてくる人もいるだろう。さらにメールマガジンなどに広告をだしていれば、それによってアクセスしてくる人もいるはずだ。また別のサイトから「リンク」が張られている場合、そこからアクセスしてくるケースも当然考えられる。そして
ここで重要なのは、いずれの経路をたどるにしろ、特定のサイトにアクセスするためには、まず何らかの形でそのアドレスを知らせるための「告知広告」が、必要だということである。このことは、オンラインショップの制作モデルを考える上で、非常に重要な点でもあるので、十分理解しておいていただきたい。
「注意」を引いて「欲求」を喚起する
さて、以上を前提に、オンラインショップにアクセスしてくるお客様の行動を、AIDCAモデルであとづけてみよう。 まず最初にお客様が接触するのは、検索エンジンやマスメディアによる広告、さらにメールマガジンや他のサイトの「リンク」などである。これらの「告知広告」は、そこでお客様に対してオンラインショップへの注意を引きつけ、興味をもたせる働きをする。これはAIDCAモデルでいう、ATTENTIONおよびINTERESTの段階に相当しよう。
ここでもし、お客様に興味をもたせることができたら、とりあえず半分は成功だ。お客様は、自分でアドレスを入力するなり、リンクをクリックするなりして、ショップにアクセスしてくるだろう。
目的のショップにアクセスしてきたお客様の次の行動は、いったいなんであろうか。それはおそらく、トップページをざっとながめながら、そこに自分の欲しい商品があるかどうかを探しだすことであるはずだ。そして、もしそこに欲しい商品を見つけた場合、お客様はその商品説明文をじっくり読んで購入を検討することだろう。これはAIDCAモデルでいうDESIREの段階にほかならない。
確信から購買へ AIDCAモデルでは次にCONVICTIONという段階がくるが、オンラインショップにおいてこのCONVICTIONは、きわめて重要な要素である。それは、お客様の多くがオンラインショップ――インターネット通販というものに対して、まだそれほど大きな信頼をおいていないからである。もっとも、そのことは通信販売がその昔、直面した問題であるのと同じく、発展途上にある新しい販売手法としてさけられない宿命のようなものかもしれない。その意味では、近い将来、オンラインショップが社会のなかで確固たる市民権を得て、より多くのお客様に受け入れられるようになるかどうかは、われわれオンラインショップにかかわる者の自覚と行動いかんにかかってくるといってもよいだろう。お互いこころしておきたいものである。
さて、このCONVICTION段階における具体的なテクニックについては、後述するが、ここではとりあえず、お客様が商品について「これは間違いないものである」との確信を得て、同時にショップ側の姿勢についても「信頼」してくれたとしよう。次に見込み客がとる行動はなんであろうか。そう、注文である。もはやここまでくれば、お客様は一刻も早く商品を手に入れたいと思うものである。とすれば、ショップ側のここでの役目は、お客様の前に注文フォームをさしだし、できるだけすみやかに注文ボタンをクリックさせること以外にない。これがACTIONである。
AINDCASモデル 以上、オンラインショップにおいても、AIDCAモデルが原則としてあてはまることはご理解いただけたものと思う。しかし、ここで「原則として」というただし書きをつけたように、くわしくみていくとオンラインショップには、AIDCAモデルでは説明が困難な段階がふくまれていることがわかる。
ここで、さきほど分析したオンラインショップの購買行動プロセスと、このAIDCAモデルを比較してみよう。図2をご覧いただきたい。 訪問⇔注意(=Attension)
商品検索⇔商品検索(=Navigation) 情報収集⇔欲求喚起(=Desire) 評価⇔確信(=Conviction) 注文⇔購買(=Action)
リピート購入⇔顧客満足(=Satisfaction) ここからオンラインショップの購買行動プロセスとAIDCAとの間には、次のような対応関係があることがわかる。
訪問⇔注意・興味(=Attension・Interrest) 商品検索⇔? 情報収集⇔欲求喚起(=Desire) 評価⇔確信(=Conviction)
注文⇔購買(=Action) リピート購入⇔? しかしながら、オンラインショップには、「商品検索」と「リピート購入」という、従来のAIDCAモデルでは説明の難しいステップがふくまれている。これに対しては、それぞれナビゲーションとサティスファクションという新しい段階を対応させてみよう。
ナビゲーションというのは、訪問(アクセス)してきた消費者が、お目当ての商品情報を探すことであり、商品検索に相当する。またサティスファクションというのは、一度購入してもらった人に対し、顧客満足を与え、リピート購入を促すことをさし、リピート購入に対応する。
さてこうして導き出されたのが、AIDMAならぬAINDCASというオンラインショップの購買心理プロセスモデルである。そしていうまでもなく、このAINDCASはそのままオンラインショップの制作モデルとしても有効である。
それでは次の章から、このAINDCASをもとにより具体的な表現ノウハウについて考えてみよう。 この続きはありません。かわりに「ウエブデザイン原論」をもとに
執筆した記事がありますので、そちらをご覧ください。 → このテキストはリンクフリー、転載自由です。ご自由にご活用ください。
ただし、著作権を放棄するものではありませんので、転載の際は必ず著者名とurlを明記 してくださるようお願い申し上げます。
「ウエブデザイン原論」(高橋 晋一郎著/繁盛するウエブデザイン/http://www.mediabahn.co.jp/web/)
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